レターNo.134「スパルタ農法 ~『根っこ』を育てる~」(2024年7月1日)

 今日から7月です。本格的なレジャーシーズンの到来です。山開きや海開き、夏祭りと、暑さを吹き飛ばす楽しい行事が続きます。暑い夏は、計画的に休暇をとり、しっかりリフレッシュしましょう。

 「スパルタ農法」と呼ばれる農法をご存じですか?
 「エッ!“スパルタ?!”今時、“スパルタ”なんて、パワハラで更迭されてしまいます!!」という厳しい声が聞こえてきます。

 今回は、一つのたとえ話から、「学ぶ力」を育てることの大切さを考えてみたいと思います。
 「スパルタ農法」と呼ばれる農法は、水や肥料を最小限しか与えないことで、植物が持ち備えている、自ら成長する力を引き出す農法です。この農法で育てられたトマトは実がぎっしりつまって果物のような甘みがあります。
 この農法を編み出した人は、永田照喜治(ながたてるきち)氏です。彼は、学業を終えた後、家業の農業に従事しました。ミカン栽培を通じて、平地の肥えた土地で作ったミカンよりも、痩せた岩山のような土地で育ったミカンの方が甘くて美味しいことに気づき、そこから彼の研究が始まりました。 彼は、農業を人材育成にたとえて、次のように語っています。
 「私の農法が、『スパルタ農法』『断食農法』と呼ばれるのは、植物を甘やかさないからです。人間もそうですが、満腹だとナマケモノになります。植物もたっぷりの水と肥料を与えられて育つと、まず「根っこ」が十分に働かなくなります。(中略)・・・・私の農法のものは、白くてふわふわの細かい「根っこ」が地上近くにびっしりできます。(中略)・・・これが美味しさの秘密なのです。ギリギリの生育環境で養分や水分を十分に吸収するために、植物が持つ本来の生命力を取り戻したのです」。

 永田氏がいう、「甘やかさない」とは、「与え過ぎない」ことです。人間も同じで、情報を与え過ぎたり、何から何まで教え過ぎると、自分で考える力が低下します。
 植物も人間も、自分自身で育つ力を養うことが大切なのです。このコメントの中で注目したいことは、「根っこ」とは、養分や、水分を吸収する力の源の部分です。この「根っこ」こそ、経験から学び取る力なのです。

 キャリア論の研究者であるスタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授は、どのような経験をするかは偶然によって左右されるが、その偶然を学習の機会として活用できるかどうかは、本人の仕事に対する姿勢によって決まると言っています。
 
 本当にそう思います。企業で働くということは、自分がどの部署に配置されるか、そこではどのような能力が求められるか、どんなお客様を担当するか、どのような上司や同僚と働くのか等は、自分で決められない事の方が圧倒的に多いです。つまり、経験するチャンスを自分でコントロールすることは難しいということです。
 自分が成長したければ、仕事に対する姿勢や心構え等の「学ぶ力」=「根っこ」をしっかり育てることが大切なのです。
 その根っこを育てるには3要素が必要です。「ストレッチ」「リフレクション」「エンジョイメント」です。簡単にご説明しましょう。

 先ず、「ストレッチ」とは、問題意識をもって、挑戦的に新規性のある課題に取り組む姿勢のことを言います。挑戦的に新規性のある仕事に取り組むことは、新しい知識やスキル・意識を経験すること。逆にストレッチしない人、言い換えると、できることばかりに取り組んでいる人は、新しい知識やスキルが学べない、つまり成長は期待できないということです。
 次に、「リフレクション」ですが、仕事(行為)の後に内省する、仕事(行為)をしている最中に内省する、一日の終わりや課題終了後に、成功や失敗の振り返りをすることです。「問題の本質は何か」「果たしてこのやり方でよいのか」等と、リフレクションを行います。リフレクションによって、新しい知識やスキルを記憶の中に刻み込むことができます。せっかくよい経験をしても、その意味を深く考えなかったり、成功や失敗の原因を振り返らないと、そこから十分な教訓を得ることはできません。私は必ず研修時、受講者にリフレクションを行っています。
 「ストレッチ」と「リフレクション」についてご説明しましたが、これらの要素は成長のために欠かせませんが、これだけですと「ストイックな修行」のようになってしまいます。そこで必要になるのが、第3の要素「エンジョイメント」です。
 「エンジョイメント」とは、自分が取り組んでいる仕事のやりがいや意義を見つける姿勢を指します。「エンジョイメント」というと、単に仕事を楽しんでいるイメージがあるかもしれませんが、ここで言う「エンジョイメント」は、常にプラス思考で、一見つまらないと思われる仕事やきつい仕事の中に意義や面白さを見出そうとする姿勢を指します。「エンジョイメント」が必要なのは、それによって、活動に対する自信がつき、更なるストレッチへの動機づけが高まるからです。
 「ストレッチ」と「リフレクション」を自転車の両輪だとしたら、「エンジョイメント」はそれらを繋ぐチェーンであると言えます。

 拙い経験から申し上げますと、やりたいことに拘り過ぎている人は、伸びていないように感じます。腹をくくり自分に与えられた仕事に覚悟をもって臨んでいる人は、確実に「根っこ」が育っています。
 4月に入社(職)した新人に対して、諸先輩方がその対応の難しさを訴える声が耳に入ってきます。新人自身も甘えを捨て、自分の理想とする自分づくりに向かって「根っこ」=「学ぶ力」を鍛えていかなくてはなりません。プロのアスリートや、いきいき仕事に取り組んでいる人々は、根っこ育ての3要素が実践できています。自分の美味しいトマト、美味しいみかんをつくりましょう。

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植田亜津子

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